無農薬って何だろうって思いますか?
私は、農業高校出てないし、農業大学出てないし、農学部にも行ってません。JAに勤めてもいません。農林水産系の公務員でもありません。普通の化学系修士です。でも、昔から、自宅の庭でキュウリ育てたり、トマト育てたりしていました。「無農薬」で育ててました。農薬をかけていないからです。キュウリ2株育てて、雨が降ったら食べきれないほどキュウリが出来ました。トマト2株育てて、雨が降ったら裂果しちゃって、食べられなくなっちゃいました。
イチゴを育てる事になり、広い畑に2,000株植えました。初めての事だらけで、師匠の農薬の使い方、JAの農薬の指導など聞いて、一生懸命農薬を使ってイチゴを守りました。病気になったら、イチゴが枯れてしまう。害虫に食べられたら、イチゴが枯れてしまう。イチゴが枯れたら、就農したばかりの私達はお金が無くなって、生活が出来なくなってしまう。必死に、農薬を勉強して使いました。イチゴ農家さんは、ビニールハウスに囲まれた畑の中でイチゴを育てます。育苗をするときも、ビニールハウスの中で育苗をします。ビニールハウスの中は、自然界とは違う環境です。
- 風通しが悪い
- 温度が高い
- 湿度が高い
- 雨が降らない
- イチゴしか存在しない
これらの特徴の為、季節ごとに気を付ける病気が違います。夏は炭疽病、秋はうどん粉病、冬は灰色カビ病、春はうどん粉病です。ビニールハウスがあるおかげで、害虫は越冬できちゃいます。私たちの農薬の散布の仕方が悪いのか、ハダニがいなくなる事はありませんでした。アブラムシはたまに見かけました。夏の育苗中や定植直後は、ヨトウガが葉っぱを食い荒らします。春、野の花が咲く時期には、アザミウマがイチゴ食べちゃいます。季節ごとの病気に対する殺菌剤の散布。1年中いるハダニに対する殺虫剤の散布。時々発生するアブラムシやヨトウガやアザミウマなどに対す殺虫剤の散布。これら農薬の散布は、イチゴ農家では神経をとがらせて、欠かす事の出来ない重要な仕事です。
農薬には種類があります。同じ種類の農薬ばかり使用すると、病害虫に薬剤耐性が出てきます。薬剤耐性を回避するために、種類の違う農薬をローテーションで使用しなければなりません。(農薬の名前が違っても、種類・作用する毒性が同じものがあります)みんなで色々話すと、ハダニにこの農薬が効きにくいとか、あの新しい薬剤はよく効いて何でもかんでもいろんな害虫全部対応可能とか。農薬の話で盛り上がります。
農薬がイチゴ農家にとってどのくらい大切な物か、少し分かって頂けたでしょうか??
そこでクイズです。イチゴ農家の農薬散布頻度として適当なのは、以下の①~④うちのどれでしょうか?。
- 毎日農薬散布
- 3日に1回農薬散布
- 1週間に1回農薬散布
- 1か月に1回農薬散布
毎日農薬を散布すると、病害虫が発生する暇はありませんね!
いやいや、毎日は体にこたえます。3日に1回がちょうど良いでしょう!
農薬をまいて弱った病害虫が復活するまでは1週間くらいかも知れないから、1週間に1回が最適です!
農薬には残効というものが存在します。散布してから、農薬が植物体からなくなるまでの時間です。1か月程度は植物体に残存しますから、1か月に1回が適当です。
答えは、③と④です。大体1週間に1回農薬散布を行っています。天気や畑の状態で、10日後に農薬散布を行うこともあります。また、農薬の種類や害虫の種類によっては1か月程度やそれ以上効果が持続することもあります。
1週間に1回農薬を散布するって、多いですか? 少ないですか? 私たち農家にとっては普通の事です。イチゴを栽培していると、出荷できない悪くなったイチゴ等も出てくる事があります。捨てるのがもったいないので、悪くなった所を切り落として家で食べたりもします。子供も小さかったので、なるべく農薬を使いたくないなって思いました。それから、殺菌剤は通常カリグリーンしか散布しない。殺虫剤は通常サフオイルやボタニガードESしか散布しない。要注意時期や、病害虫拡大時には特効薬を散布する。化学農薬から一歩引いて、有機農業でも使える農薬が増えていきました。また、特殊な苗の育て方(リンク)をした関係でハダニは定住していました。育苗の時も、定植してからも、私たちの対応の仕方に慣れたハダニはすくすく育っておられました。ハダニ対策は私たちにとって、最も重要な事となっていきました。そんな時、JAの集荷所で話をしていると、先輩農家さんが、スパイデックスって良いよ! って言っておられました。これまで、天敵製剤はバンカーシートというものは聞いたことがりましたが、高価でした。このスパイデックスは、導入しやすい価格でもあったので、話を聞いて、さっそく導入することにしました。
ハダニは沢山いたので、スパイデックスを放飼する前、葉裏への浸達性が高いグレーシア乳剤を使用して、のびのび過ごしていたハダニを退治しました。それから、スパイデックスを放飼して、スパイデックスが少しずつ増えました。この年は導入するのが遅かったので、ハダニの広がりが抑えられるのを確認するにとどまりました。翌年は、イチゴの株間にネギやニンニクを植えました。ハダニが嫌がると聞いたからです。ネギがすくすく育って、とても大変でした。前年に効果を感じられたスパイデックスは、春先の3月と5月に2回放飼しました。スパイデックスは、ネギが好きみたいでした。ネギにたくさんついていて、どんどん増えていきました。そして、就農以来悩みの種だったハダニが、初めてゼロになったのです。古い農薬、最新の農薬、誰かが効いたよって言う農薬を試しても、高級な静電噴霧ノズル(リンク)を使ってもゼロにならなかったハダニが、ゼロになりました。
殺菌剤はカリグリーン、ハダニ用の殺虫剤はスパイデックスという方針が決まりました。病気のうち、炭疽病だというものは見られません。うどん粉病もほとんど見られません。毎年困るのは、灰色カビ病でした。灰色カビ病は納豆菌でやっつけることが出来るみたいです。実際に、納豆菌の製剤でボトキラー水和剤というものがあります。害虫だと、アブラムシは沢山発生したことがありませんでした。天敵を検索するとアフィパールというものがあるみたいです。時に猛威を振るうアザミウマにはククメリスというものがあるみたいです。ヨトウガにはフェロモントラップで対抗するみたいです。どれだけ頑張っても、病害虫がゼロになることはこれまでありませんでした。この年、初めてハダニがゼロになりました。農薬って何だろう? という疑問や複雑な感情が生まれました。
灰色カビ病は、納豆を自家培養して、害虫は天敵を使ってみよう!
最初に調べたのは、現代農業(リンク)です。社団法人 農山漁村文化協会 通称:農文協 の出している雑誌です。初めてイチゴを作ることになった時、教科書が無くて片っ端から情報を集めるために使った雑誌です。真実かウソかわからない、日本全国のいろいろな農家さんの、「これがこれでこうなりました。」って言うのの寄せ集めのような雑誌です。納豆菌を調べると、いろいろ書いてありました。参考にして納豆菌を培養することが出来ました。納豆の匂いがする粘り気のあるような気がする液体です。調べていると、納豆菌と酵母菌と乳酸菌をまぜてえひめAIというものを作っている人がいることを知りました。早速、えひめAIを作ってみました。甘い匂いのする液体でした。光合成細菌というものも紹介されていたので、ついでに作ってみました。全部、案外簡単に作れる菌の液体でした。菌は自分で増えてくれるみたいです。そういえば、家では妻がヨーグルトメーカーでヨーグルトを自作していました。パンもイースト発酵して作っていました。雑誌を読むと、えひめAIはうどん粉病を予防できるようです。他にも、耐病性の発現を助けてくれるみたいでした。耐病性などの発現に関わる因子も紹介されていました。
同じ頃、テレビで放送されていた、植物がものすごい反応をしているという話がありました(リンク)。植物は、グルタミン酸チャンネルというものを使って、ある葉っぱが昆虫に食べられた時に、その葉っぱが昆虫に食べられていることを他の葉っぱ伝えているというものでした。そして、その信号を受けた葉っぱは、その葉っぱを食べている昆虫が消化不良を起こすような化合物を合成するというものでした。
えひめAIとかの情報と、最新の研究が私の頭の中で整理されて、無農薬でやっていけるかも! と思った瞬間でした。でも、殺菌剤については、まだ効果を見たことがないので、一歩踏み出すことにものすごく勇気が必要でした。しかし、私の研究者魂はすでに発火していて、見切り発車でどんどん進んでいきました。農薬をやめてみる。展着剤をやめてみる。えひめAIや納豆液、微量要素などの栄養で農薬は使わない葉面散布が始まりました。畑に灌水する時は光合成細菌をまぜました。自分で培養した、食べられるものから増やした自然の菌を、農薬を散布していた時と同じスケジュールで散布しました。効果はわかりません。でも、続けました。寒くなって、ビニールハウスに内張をする頃には、灰色カビ病が少しずつ増えました。自家製の菌液の散布濃度などを調整したり、散布後の換気方法など変更したりしました。農薬を散布していた時と同じくらいか、少し悪いくらいの状態を保てるようになりました。農薬を使っても、病害虫をゼロにすることは出来ない。どうせ出来ないのだから、多少の灰色カビ病は葉欠きで何とか乗り切ろう! 寒い時期の葉欠きは、光合成の減少につながり、イチゴの味に直結します。さわこ苺農園は「美味しいイチゴを作りたい」農園です。イチゴの味は保ちたい、灰色カビ病になったらイチゴの株が枯れちゃう。板挟みでした。
毎日、悪くなった葉を欠いても、2~3日経つとまた悪くなってる。1枚葉を欠く、2枚葉を欠く。ビニールマルチにくっついてる果実は、マルチとの間に水を付けていることがあって、そこが灰色カビ病になってしまう。大きくて美味しそうなイチゴだけど、収穫してみるとマルチの所だけ灰色カビ病になってる。今ではイチゴの登録が無くなってしまいましたが、ピクシオDFという農薬がありました。灰色カビ病によく効いていました。この農薬を使用していた時は、灰色カビ病で今回ほど困ることはありませんでした。農薬の力も理解しつつも、一度踏み出した歩みを止めることは出来ません。
これだけ苦労して栽培しているのだから、無農薬をアピールしよう
<続く>
以下、登場予定の話題
ちなみに、無農薬という言葉は規制でがんじがらめにされた言葉のようで、
(天敵製剤は植物に散布しません。ハウスに放飼するのですが、農薬扱いだそうです。((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル)